堀ノ内の築50年の集合住宅の一室のリノベーション。

 

既存の物件は、間口が狭く奥行きが深い、いわゆる「ウナギの寝床」であり、ベランダ側と玄関側にそれぞれ2カ所ずつ設けられている合計4つの窓面からの採光をどのように生かすかが課題であった。

まず、大きな間取りの方針として、水回りを壁に寄せて並置して、それ以外の居室と居室の間には完全な壁は設けずに空間が繋がって明かりを遮らないような構成とした。

 バルコニーに面する2つの窓面のうち、明るい片側はリビング、もう片側は寝室としたが、寝室は個室として壁で閉じるのではなく、境界面を大きく透明なガラス引戸で区切ることで、窓面の明かりがLDKにまで届くようにした。(来客時にはここにカーテンをすればよい。)この境界面は寝室の広さの確保のために斜めになっているが、ここが斜めであることによって、光をLDKにまで真っすぐ届けることができる。

玄関側の2つの窓面のうち、片側の窓はSICのための明り取りとしたが、廊下との間に壁はなく、またWICの壁を天井からセットバックさせているため、光が奥まで回り込みやすい。もう片側の窓面には書斎を配置しており、この書斎と中央のダイニングとの間は壁でなく本棚で区切ることで、内側まで光が漏れるような間仕切りとした。このようにそれぞれの部屋で部屋同士の境界の作り方に手を加えることで、個室性を保ちながらも、全体としての明るさや視線の抜け感、広さの感じ方を上げている。

 

この家の住み手の二人は共に在宅ワークが多く、読書やテキストを執筆する作業が多い。そのため、家の中に複数の居場所があって、それらの場所を自由に選び、気分を変えながら生活できることが求められていた。

仕事場は書斎だけでなく、ダイニングテーブルも作業場になり、時には仕事仲間との打ち合わせスペースを兼ねることが想定された。そのため、造作のアイランド型調理台を施主が持っていたテーブルの奥行きに合わせて製作することで、テーブルと調理台が一体化して合計3mを超えるフレキシブル作業台になるように提案した。

読書はリビングのソファでも書斎でもベッドの上でもどこでも楽しめる。また、二人には映画を鑑賞する共通の趣味があるが、寝室のガラス引戸を開放すれば、ベッドからTVモニターを見ながらくつろぐこともできる。仕事にもくつろぎにも複数の場所で臨機応変に応える間取りを意図している。

 

意匠としても、壁がないまま奥へ奥へと連続する空間に対し、サイドに並置した水回りにつけた扉が奥へ奥へとリズムよく反復する見た目にすることで、空間のアクセントに利かせた。最後に、このリズムに沿う形で、壁付けのミラー照明を反復させたが、視線の連続性や空間の一体感を増幅されて、これもまた効果的であった。

堀ノ内の家

分類:リノベーション

案件分類:設計・施工

主用途:住宅

構造:鉄筋コンクリート造

延床面積:68.58㎡

設計期間:2024年1月~2024年3月

施工期間:2024年4月~2024年6月

写真:貝出翔太郎