【建築と私】伊藤 茉莉子|後編「ルイス・カーン建築を巡る旅」

新企画「建築と私」。株式会社KITIのメンバーそれぞれの建築観に焦点を当てるシリーズです。第1回は、設計士の伊藤茉莉子の物語をお届けします。

前編はこちら:【建築と私】伊藤 茉莉子|前編「ル・コルビュジェ建築に泊まる」

建築と人生の楽しみ方を学んだ、設計事務所時代

私の建築観と人生観を形作ったもう一つの時期は、設計事務所に勤務していた頃です。

当時のボスであった谷内田章夫氏からは、建築の専門知識にとどまらず、人生の楽しみ方や設計事務所のボスとしてのあり方など教えていただきました。

谷内田氏に連れていっていただいた、美味しいお酒や食事を楽しめる数々の名店。スタッフ全員で楽しむ野球観戦と冷えたビールは、毎シーズンの恒例行事として心待ちにしていたものです。年末の忘年会では、ブルーノートで豪華な料理と音楽を楽しむ贅沢な時間を過ごしました。

「宿好き」の原点。ルイス・カーン建築を巡る旅

印象深い思い出の一つは、社員旅行でアメリカのキンベル美術館、イェール大学など、ルイス・カーンの代表的な建築を中心に巡る建築ツアーです。

キンベル美術館

中でもソーク生物学研究所を訪れた際の衝撃は、今も心に鮮明に残っています。真っ青な空の下に広がる何もない広場の美しさは、言葉では表現することができない、生涯忘れられない光景でした。

谷内田氏の影響は、私個人の旅行にも及びました。給料を少しずつ貯めては、氏おすすめの宿に泊まる旅を重ねました。この習慣と学生時代の教えが相まって、現在の「宿好き」な私を作ったのです。中でも、個人的にバリに旅行に行った時にたまたま同じタイミングで来ていた谷内田さんの宿泊していたアマン リゾートの「アマンダリ」に遊びに行かせていただいた時の感動は今でも鮮明に覚えています。「いつか私もこんな宿に泊まれるようになりたい!」そう思わせてもらった経験でした。その後、いろいろな宿に泊まる機会に恵まれ、語りたい宿の思い出は尽きませんが、それはまた別の機会に。

アマン リゾート「アマンダリ」バリ島

挑戦を許容し、良質な建築体験を共有すること

仕事面での谷内田氏の指導を言葉で表すと、「のびのび」という言葉が適切かもしれません。大学卒業後わずか半年の未熟な私が「小規模集合住宅のプロジェクトを担当させてほしい」と無謀な要求をした際も、リスクを承知の上で任せてくれました。

失敗した際も叱責されることはなく、一緒に解決策を模索してくれました。謝罪が必要な場面では、共に頭を下げてくれたこともあります。もちろん、失敗を未然に防ぐため、経験豊富な先輩をサポート役につけるなどの配慮もありました。

設計事務所時代、私は大人としての経験値を高め、安心して挑戦できる場所を得ました。仕事と人生の両方を楽しむという姿勢も、ここで学んだものです。

今、私自身が指導する立場と年齢になり、これらの経験の重要性をより深く感じています。

共に働くスタッフたちに、安心してスキルアップできる環境を提供すること。良質な建築空間の体験を共有し、互いの価値観を高め合う仲間であること。そして、それらの経験を基に、共に新しい建築を形にしていくこと。これらが、現在の私が最も重要視し、情熱を注いでいることです。