都市の隙間に灯す、光と記憶を紡ぐ家へ~Before/ After:『楓灯の家』~

細い路地の奥、四方を建物に囲まれた密集地に佇む、築年数の経った木造アパート。この場所に眠る記憶と地域の気配を丁寧に受け継ぎながら、家族が集い暮らす住まいへと生まれ変わりました。自然光の届きにくい都市の隙間に、建物中央の「光庭」が煌めく、新しい暮らしの風景をご紹介します。

楓灯の家

Before:かつての姿

細い路地を抜けた先に現れるのは、築年数が定かではない木造アパート。四方を建物に囲まれ、日差しは届きにくく、1階の室内は昼間でも薄暗さが残っていました。狭い通路や間仕切りの多い間取りは、暮らしの動線を妨げ、家族のつながりを感じにくい空間になる恐れがあります。

外観もどこか疲れた印象を帯び、都市の中でひっそりと取り残された存在となっていました。家族が集う住まいとしては機能も快適性も十分ではなく、光と広がりが求められる環境でした。

After:新しい暮らしへ生まれ変わった住まい

光を呼び込む「光庭」

自然採光を得にくい環境に対して、建物の中央に大胆に吹き抜けを設け、トップライトから光を取り込む「光庭」を計画しました。これにより、昼間でも薄暗かった1階に柔らかな光が届き、家全体が明るさと開放感に包まれる空間へと変わりました。

家族の気配を感じる立体的な動線

上下階を縦に貫く吹き抜けや立体的な階段構成によって、家族がどこにいても互いの存在を感じられる住まいに。視線や声が交わることで、かつて分断されていた空間が、安心感のあるつながりをもった居場所へと生まれ変わりました。

構造を活かした再生のデザイン

既存の柱や梁は、一つひとつ状態を確認しながら残すものと交換するものを選別。使用可能な構造材は敢えて露出させ、建物の記憶を住まいに刻むとともに、新しい素材と調和させました。

路地の記憶を継ぐアプローチ

細い路地を抜けて玄関へと至るアプローチは、そのまま家の内部へと連続するように設計。都市の隙間に潜む路地の記憶を生活空間に取り込み、地域とのつながりや親しみやすさを感じさせます。

快適性を高めるプラン

採光や通風を必要としない水まわりは北側に集約し、光庭の周囲に居室を配置。限られた条件の中で機能性と快適性を両立し、家族が心地よく暮らせる計画的な空間が実現しました。

閉ざされた印象の木造アパートは、光と家族の気配がめぐる開放的な住まいへと再生しました。路地の記憶を残しつつ、現代の暮らしにふさわしい明るさと快適さを取り込んだ「楓灯の家」。
そのBefore/Afterのコントラストは、建築が持つ「再生の力」を感じさせてくれます。