素材に華美な装飾を加えず、ありのままの魅力を引き出したい…そのような空間づくりにぴったりの木材が「ラワン材」です。
その控えめな存在感と、どこか懐かしさのある風合いは、見た目は素朴でも、空間に取り入れるとふと息をつけるような、静かな余韻をもたらしてくれます。
今回は、ラワン材の魅力について、改めて掘り下げてみたいと思います。
素材としての「ラワン材」の魅力

ラワン材は、広葉樹の一種で、古くから日本でも広く使われてきた素材です。他の木材と比べて特別な木目や華やかさはないかもしれませんが、それがかえって良いという方も。
ラワン材の魅力は、余白を感じる美しさです。
空間の中で主張しすぎないため、壁や天井、家具といった面に使うことで他の要素を引き立てながら空間全体にやわらかい統一感をもたらしてくれます。
触れてわかる、「素肌」のような質感

ラワン材の表面にはわずかなざらつきがあり、塗装や仕上げを最小限に留めたときにこそ、その魅力が際立ちます。
ツルツルでも、ザラザラでもない。指先で触れたときの、ほんの少しの引っかかりが心地よく、まるで素肌に触れているような感覚を覚えるかもしれません。
手仕事や木の温度感を大切にする空間では、この質感が安心感と落ち着きを生みます。
統一ではない色の「揺らぎ」を楽しめる

ラワン材の色合いには淡いものから赤みを帯びたものなど幅があります。
この「色の揺らぎ」は、意図してつくり出すのが難しい自然の美しさです。無垢材ならではの個性は、素材そのものが語る空気感をつくってくれます。
塗装や加工で「表情」を変えられる柔軟性

無塗装でも美しく、また塗装によって多彩な表情に変化できるのもラワン材の強みです。
塗装の種類によってはしっとりとした濡れ色や、ラフで軽やかな印象、さらにはヴィンテージ風にもできます。
壁や床や家具などに用いることで、手間をかけずにその変化を楽しめるのも、ラワン材の魅力のひとつです。
素材の個性をそのままに。ラワン材で仕立てる暮らしのかたち
KITIで設計した物件の中から、ラワン材を使用した家具の事例をご紹介します。

住まい手である高齢のご夫婦の暮らしやすさにも配慮し、都会のマンションではなかなか得がたい、落ち着きと上質さを感じられる空間づくりを目指して設計したハハ-ハウス。
ダイニングの壁面にはキッチンのカップボードと連なるキャビネットを造作し、そこからリビング側へと造作ソファを連続させることで、空間に一体感と流れをもたらしました。
その対面には、ラワン材仕上げの壁を設け、梁上部に間接照明を仕込むことで、空間がまっすぐに伸びていく印象を演出。
素材・造作家具・照明が互いに呼応することで、空間全体に心地よいリズムと伸びやかさが生まれています。
仕上げ材は、ベージュトーンを基調に全体の調和を図りながら、木部の染色、カラーモルタル、リノリウム、壁紙、ブラインドなど、素材と色の選定を丁寧に行いました。

この家に暮らすご夫婦は共に在宅での仕事が中心です。読書やテキストの執筆など、デスクワークに向き合う時間が多いため、住まいの中に複数の居場所があることが求められていました。
その日の気分や作業内容に応じて場所を選び、自由に過ごせる柔軟性が日々の暮らしに心地よさをもたらします。
そこで私たちは、仕事の場を書斎だけに限定せず、ダイニングテーブルやキッチンまでも作業の場として活用できるように設計。
特に印象的なのが、お施主様が所有していたテーブルの奥行きを基準に設えた造作のアイランド型調理台です。ラワン材と人工大理石で仕上げた天板は、使い勝手と美しさを両立。ダイニングと一体化することで、全長3メートルを超えるフレキシブルな大きな作業台を空間の中心に据えました。
この場は、食事・仕事・打ち合わせなど、さまざまな活動を受けとめる住まいのハブとして機能しています。
ラワン材は、光の当たり方や時間の経過で、少しずつその表情を変えていきます。何もしていないように見えて、空間がきちんと整う、そのような感覚を与えてくれる素材です。
静かで、あたたかく、懐かしい。住む人の暮らしや時間とともに、ゆっくりと馴染んでいく。それが、ラワン材の持つ奥行きある魅力なのです。