住まいの中に、少しだけ囲われた場所をつくる。
それは部屋を増やすこととは少し違う、居場所のつくり方です。
最近では「ヌック」や「小上がり」といった言葉を耳にする機会も増えました。
どちらも、家族の気配を感じながら過ごせる、小さな居場所です。
今回は、それぞれの違いとともに、暮らしに合わせて使い方を変えられる工夫についてご紹介します。
ヌックとは何か

ヌックとは、部屋の一角に設けられた、小さなくつろぎのスペースのことです。
三方向を壁に囲われていたり、少し奥まった位置にあったりと、空間の中に「こもれる場所」をつくります。
完全な個室ではなく、周囲とつながりながらも、自分の時間を持てる場所がヌックの特徴です。
読書をしたり、少し休んだりなど、使い方を限定せず、そのときどきの過ごし方を受け止めてくれるような居場所です。
小上がりとの違い

一方で小上がりは、床に段差を設けることで生まれる居場所です。
床の高さが変わることで、空間に自然な区切りが生まれ、座る、寝転ぶといった行為に適した場所になります。
ヌックが「囲われることで生まれる居場所」だとすれば、小上がりは「高さの変化によって生まれる居場所」といえます。
どちらも空間を大きく分けることなく、暮らしの中に居場所のバリエーションを増やす方法です。
可変性という考え方

ヌックや小上がりは、最初から用途を決めすぎないことも大切です。
たとえばお子さんがいるご家庭は子どもの成長や暮らし方の変化によって、必要な機能は少しずつ変わっていきます。
そのためKITIでは、将来的に使い方を変えられる構成や、場合によっては撤去も可能なつくり方を検討することがあります。
固定された部屋ではなく、変化を受け止める余白として考えることが、長く使える居場所につながります。
庭の気配を感じるヌック|上野毛の家

上野毛の家では、窓際にヌックを設けました。三方向を壁に囲われ、リビングに向かって開く小さな居場所です。
専用庭に面した位置にあるため、外の気配を感じながら静かに過ごすことができます。
木製の台の上にクッションを敷いたベンチ状の構成とし、座面の下には収納を設けました。
母と子が並んで読書を楽しむ場所として、日常の中に少しだけ特別な時間を生む空間となっています。
暮らしに合わせて変わる小上がり|町田の家

町田の家では、小上がりを収納と一体で計画しました。
床下には季節物を収める収納を確保し、上部は座る、寝転ぶといった行為に対応できる場所としています。
さらに、グリッド棚の奥に広がる空間は用途を限定しない構成とし、子ども部屋として使うことも、別の用途に転用することもできるようにしました。
グリッド棚や、小上がりの上にはカーテンレールを設置し、住み手の自由に仕切れるカスタマイズができるようになっており、小さなマットレスを広げれば、ヌック空間としても利用可能です。
小上がりを固定された機能としてではなく、暮らしに応じて役割を変えられる場所として捉えています。
小さな居場所がもたらすもの

ヌックや小上がりは、空間を大きく変えなくても、暮らしの質を少し豊かにしてくれます。
完全な個室ではないからこそ、家族の気配を感じながら、自分の時間も持てる。
囲われることや、少し高さを変えるような操作が、住まいに多様な居場所を生み出します。
小さな居場所は、暮らしの中に余白をつくるための工夫のひとつです。
写真:貝出 翔太郎