東浅草にある築40年の鉄骨4階建の集合住宅の一室の改修計画である。
賃貸としての借り手の付きやすさを上げるため、間取りの効率の向上と、空間性の刷新を目指した。
既存の間取りは28㎡で、玄関から奥に向かって「キッチン-ダイニング-寝室」の順に並ぶ、高度経済成長期によく建設された典型的な間取だった。この間取りを大きな1LDKにWIC・SICがつく、現代のニーズに沿った構成に置き換える。
28㎡を効果的に活用するには、玄関から向かって左側の幅1400㎜の間口と右側の幅1200㎜の間口に対して寸法の詰めを徹底し、LDK以外の室面積を最小サイズに納める必要がある。左側に水回りとWICをギュッと配置し、残る右側にSICと寝室を配置した。寝室は一見は寝台列車のような狭さだが、廊下との間仕切りをガラス戸とする事で、廊下も含めた空間の広がりを感じられるように工夫した。柱巻きとSICとの取り合いで余った凹み部分は、寝室側から使えるワークスペースとして活用することで面積の効率を上げた。(ここがこのお部屋の一番居心地が良い空間となった。)さらには、壁の厚みもミリ単位で絞った。これらの寸法の詰めの連続により確保した残りの空間のすべてを窓面に向かって開放することで、大きくて明るいLDK空間を得ることができた。
マテリアルとしては、古い外見からはイメージできないギャップを演出するのが良いだろうと考え、ライトグレーを基調にした空間をベースにし、適宜木目のある素材を混ぜることで、冷たさや飽きを感じにくくなるようにした。板材には、仕上げ処理のコストのかからないように、また賃貸に必要な耐久性を保つために、ロシアンバーチ積層のメラミンシート仕上げとした。ロシアンバーチの積層材は船などの内装にも使われる材料で、塗装などの仕上げが必要がない。また、床には、場所柄でインバウンドのニーズも多いため、土足で過ごす入居者も考慮し、モルタル風フロアタイルを施しメンテナンス性も考慮している。
壁厚の調整にまで及ぶ部屋寸法の効率の追求と、土足であることや船舶素材の組み合わせによってできたこの空間は、クルーザーの船内のような、あるいはキャンピングカーの内部のような、ストイックさとワクワクの混ざった印象に仕上がった。
結果、このお部屋は、賃貸には貸し出されずに施主の関係者が借りる事になり、賃貸募集という表舞台に出る事なく、住まい手に渡っていく事になった。
Capartment
分類:リノベーション
案件分類:設計・施工
主用途:賃貸住宅
構造:鉄骨
延床面積:40㎡